夏合宿のジンクス

 ■ 第2話

胸にためこんだ煙を一気に吐き出す

吐き出された煙が星空に消えていくのを静かに見送る

「けど意外だな先輩がタバコ吸うなんて」

「そう?そんな真面目に見える、俺?」

「タバコ吸うと成長が止まるんですよ」

どこか得意げに彼女がつぶやく

「吸い出したなのは最近だから問題ないよ」

今の自分の身長が気にっている

高すぎもせず、低すぎもせず

これ以上成長して欲しくない。

だからタバコを吸いはじめた。


―なんて言い訳だな


自嘲の笑みが漏れた。

「私はもう少し高い方がかっこいいと思うんですけど」

「今の身長がちょうどいいんだ。それにもう運動しくなるし」

「そっか明日で引退ですもんね」

「そっ、もう健康管理とかしなくていいし、朝練で早く起こされることもない」

「けど、大学行っても部活続けないんですか?」

「県ベスト8が関の山の奴が?」

自分に才能があると思っていたわけじゃない

けど一生懸命やれば全国大会ぐらい行けると思っていた。

「十分すごいと思うんですけど…。」

「大学入ったらやっぱ遊びたいからね。」

タバコをくわえ、一気に吸いこむ

その姿を彼女は不思議そうに見ている

「タバコっておいしいんですか?」

「うまいとかじゃなくて吸ってると落ちつく、精神安定剤みたいなもんだよ」

「そんなもんかなぁ?」

「何なら吸ってみる?」

彼女は少し迷うような仕草をして

「やめときます。私まだ身長欲しいですから。」

笑って答える。

確かに彼女は女の子の中でも背が低い部類に入る子だろう。


―確かに、可愛いのかもしれない


とぼしい明かりの中で彼女の笑顔を見て思う

部活の友人や他の後輩の女子は、どうして付き合わないのかしつこく聞いてくる

人は少なからず他人と接する時、距離をおこうと線を引こうとする

たとえ恋人であっても

とくに俺は…。


彼女はその線が見えないかのように平気でまたぎ越し俺の中に入ってこうようとする。

本当に線に気づいていないのか

気づいているのに見えないフリをするのか

俺には分からない

ただ
どちらにしろそういう娘は苦手だ


―多分気づいてるんだろうな


俺はからかわれているだけなにかもしれない

気がつくとタバコがだいぶ短くなっていた。

「あのさ…。」

2本目のタバコを箱から出しながら、彼女に声をかける。

「はい?なんですか?」

「俺になんか用あんの?」

彼女はしばらく考え込む仕草をして

「じゃあ、なんかお話して下さい」

「はっ?お話?」

「ハイ、お話。ダメですか?」


―俺はからかわれてるだけなのかもしれない。


「そうじゃなくて…。なんか用があって俺を探してたんじゃないの?」


―なら俺も少しずるくいかせてもらう


「正直言うと俺一人になりたいのよ  だから、みんなから離れたし  合宿所からもでってたの」

彼女は黙っている下を向いたのと夜の闇のせいで顔はよく見えない

「何か用があんならいってくんない?」

火のついてないタバコを指にはさんで挑発するように言葉を発する

「そう、ですよね…。」

彼女の口調は沈んでいた

「用もないのに話しかえるべきじゃなかったですよね  合宿所出た時点で先輩が一人になりたいって分かったんですけど…。」

落ちこむ彼女を見て少し良心が痛んだ。

「ごめんなさい。」 「わかった。」

重なった二つの言葉

「へ?」

「俺が少し意地悪すぎた。」

「そんな私が…。」

「いいから。なんか話すよ。  話するから終わったら一人にさせてくれる?」

「……。」

彼女は何も言わない俺はそれを肯定と受け取った。


シュボッ

ライターでタバコに火をつける


残りはあと9本
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