夏合宿のジンクス

 ■ 第3話

「けど話つったてなぁ…。」

もともと俺は口数が少ないほうだ。

「先輩の体験談でもいいんですよ。」

彼女は、多分いつもの様に笑って、いった。


―また無茶を言う…。


俺は他人と距離をおこうと線を引くタイプだ

そんな人間が体験談など人に話せるわけがない

「この部活のジンクスにまつわる話とか。」

「俺の失恋話をききたいの?」

「んー。別にそういうわけでもないですけど。」

そこで、俺はようやく気づいた。

この部活には合宿にまつわるジンクスがある

後輩が先輩に告白して必ずフラレる。

毎年 。

しかし、このジンクスの体験者達だけに伝わる もう一つのジンクスがある


―この娘もジンクスの体験者になろうとしてるのだろうか?


この子は俺に気がある それは衆知の事実


―もしそうなら俺は…。


「先輩?そんなに悩むならホントにいいですよ。」

「ああ、ごめん。」

暗くて顔色までは分からないだろうが 俺は彼女に顔を見られないように カクテルのボトルにタバコの灰を落とす

「…あのさぁ?」

「はい?なんですか?」

「…。ごめんやっぱいいわ。」

「そういう風に言われると気になりますよ」

「なんでもないんだ。ホント」

自分でも信じられないくらい俺は動揺していた。

今が昼なら、俺の挙動不審なのがあきらかだったろう。

今が夜でなく、彼女がはじめての酒で酔っていなければ。

「そうだな。俺の好きな物語の話でいい?」

落ちつくため、答えを出すため、俺は大好きなあの話をすることにした

「ええ。いいですよ。」

すぐ前の事も引きづらず彼女は、おそらくやはり笑顔で、答えた

「確か俺が小四ぐらいの時に、読んだ本なんだけどね」

あいまいな記憶をたどり、俺は話をはじめる

「出だしがさ、

 『君は早く大人になりたい? それとも子供のままでいたい? それじゃあ、 人はいつ大人になるの?』

こんな感じで書いてあるのよ」

「へ〜、面白そうですね」

「でしょ?どう思う?人はいつ大人になるのかな?」

「ん〜わからないです。私自分のこと大人だとも子供だとも思わないし」

「俺もそうだよ」

いって、タバコが短くなっているのに気づく

2本目のタバコはほとんど吸わずに ボトルの中に落ちていった

次をとりだし、火をつける


箱の中には8本のタバコが並んでいる
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