夏合宿のジンクス

 ■ 第1話



―その部活には合宿にまつわるジンクスがあった―



ふぅ。

ため息をこぼしてその場に寝転がる。

視界には満天の星空しかない。

この学校は山の上に建ってるから星もよく見える

あんま好きではない学校のわずかな長所

遠くにはかすかに笑い声が聞こえる

まだみんな騒いでいるらしい

明日は合宿の最終日

午前にOB・OGとの簡単な試合(ゲーム)で解散

だから決まって宴会になる

多少酒が入っても顧問は知らん振り


俺は宴会から

宴会に参加してるある二人から

逃げてきた


そして今テニスコートの真中で仰向けで星を見てる

見えるのは星空だけ

聞こえるのは虫の声だけ

ロマンチックじゃないか

しばらくして起き上がりタバコに火をつけようとする


―しまった。灰皿がない


学校でポイ捨てするわけにもいかず

しかたなしにタバコをあきらめる


―星が見れれば今はタバコなんか要らないか


そんな気取ったことを考える

「先輩。こんなとこにいたんですか?」

聞こえてきた声。

「ああ。みつかったか。」


―君から逃げたのに


「となりいいですか?」

「いいよ。断る理由もないしね。」

この子は俺に気がある

それは衆知の事実

もちろん俺も知ってる

「合宿所で騒がないんですか?」

「うちの部活のジンクス知ってる?」

「もちろん有名ですもん。」

この部活には合宿にまつわるジンクスがある

後輩が先輩に告白して必ずフラレる。 毎年 。

「そのジンクスの体験者なんだ俺。」

「ああ。ききました。」

「んで、その先輩がいるわけよ。 今はなんとも思ってないけどちょっとね」


―あと君からも逃げたくてね


心の中でつけたす。

「なるほど。」

悪意はないんだろうがその笑顔がちょっとムッときた

見ると彼女は右手にカクテルの入ったボトルなんかを持っていた

「ん?それ飲むの?」

彼女に右手を指差して聞く

「ああ、これですか?持ってきただけです。」

「ちょうどよかった。くれない?」

「飲むんですか?」

彼女は俺と同じ質問を繰り返した

「ああ。空き瓶だけでいいんだ」

「空き瓶?」

しまったタバコをまた出して彼女に見せる

「灰皿がなくってね」

「ふりょ〜。けど中身はどうします?」

笑いながら、

この子は始終笑ってる気がする

、彼女は聞いてきた。

「飲んじゃっていいよ。」

わざと無愛想に俺は答える

「私一人でですか?」

「そんなたいした量じゃないでしょ。 あっ。そっか、酒初めて?」

「はい。先輩は違うんですか?」

「一年からこの部活にいるってことは、最低三回は飲まされてるってこと」

彼女は声をたてずに軽く、ふっ、と笑った。

「私飲めるだけ飲みますから、残った分は先輩お願いします。」

俺は何も答えなかった。

彼女は知っている。それが肯定の答えだと

「星がきれ〜ですね。」


―俺はそれを一人で見てたいんだよ


「はい。もう限界です。」

しばらくして彼女がカクテルのボトルを差し出した。

見るとまだ3/4近くが残っている。

「こんなもんしか飲めないの?」

「だってここに来るまでにだいぶ飲まされてきましたもん。」

「にしたって、こんなもんはジュースといっしょだろ。」

少しためらったが、間接キッスが恥ずかしいとか言える年頃と相手ではないので 口をつけて、一気に胃の中に流し込む。


―やっぱ、ただのジュースだな。こんなのでつぶれてたなんて…。


中身を少し底に残して、その場に置く。

タバコを咥えて、ライターで火をつける。


―やっと、綺麗な星を見ながらタバコが吸えるよ  


横でわらってる後輩さえいなかったら、最高なのに

カクテルを飲みきってすることはもうないはずなのに

彼女はその場を離れようとしない。


―ひとりになりたいっていっても聞かないだろうしな


タバコの残り本数を数えた。あと10本だ
 TOP■  ■次のページへ